「 伝えたい言葉 」
吉田あい(八王子市)
今年の4月、とうとう車いす利用者になった。
3年程前から痛みを感じていたが、自分の免疫が関節などを攻撃してしまう病だった。
30歳を過ぎて働き盛り、本来なら、子どもを授かり、母に一番の親孝行ができる年齢だが、それも難しいようだ。
これから、両親も年を重ね、介護が必要になるかもしれない。
介護を担うはずだった私が、逆に介護をされている毎日。
「持つべきものは、元気な母」と軽口をたたいてはいるものの、内心は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
しかし、当の母はというと、そんなことはあまり気にしていないように見える。
車いすを押しながら、あちらこちらを見て歩き、時には美味しいものを頬張り、道端の草花の変化に気づいては、楽しそうにしている。
車いすになると働き方が限られる。仕事をセーブしたことで、母と一緒に買い物に出かけたり、散歩に行く機会が増えたのだが、どうやらそれが嬉しいらしい。
娘が病気になったからと、落ち込んだり悩んだりする素振りを見せられないことで、私の気持ちも軽くなった。
「なったものは仕方がないから、その後どうするか考えればいい」小さいころからそう言われていたが、なかなかそうは思えなかった。失敗しては一通り悔しがっては落ち込み、起こってしまったことを、くよくよと悩んだ。
しかし今、母がその教えを体現してくれている。できることだけを精一杯して、できないことは潔く諦めればいい。
できることは、存分に楽しめば良い。言葉にされたことはないが、そんな思いが伝わってくる。
すると、今の自分の状況にも、いくぶん希望が見えてくるから不思議だ。これからも、母が毎日笑って過ごせるようにしたい、それが今の私の目標だ。
実際に伝えようとすると、なぜか照れくさくて言えずにいるが、いつか母に伝えたいと思う。
「お母さんがいてくれて本当に良かった。心から、どうもありがとう。」