第 3561 号2017.04.23
「 桜吹雪 」
小川 珠実(品川区)
母が旅立って一年が過ぎようとしている。
『ざっくばらん』という言葉が好きだった母は、繊細だった父に比べて、多少『がさつ』とさえも思えるような気さくな人だと、娘の私は思っていた。
母が旅立つ少し前、近所の梅の花をふたりで愛でた。花が好きだった母は嬉しそうだった。『もうすぐ桜だね』と話していたのに、開花の声を聞く直前に、最後の入院となってしまった。病室からは桜を見ることは叶わなかった。
奇しくも、母が病院から無言の帰宅をした日、隅田川の桜は見事に咲き誇っていた。
道すがらドライバーの方に母が桜を楽しみにしていたことを話すと、彼は少し遠回りをして桜のトンネルの下に車を走らせてくださった。母に桜を見せてくれたそのお気遣いは一生忘れない。母もきっと感謝しているに違いない。
弔問に訪ねて下さった母の友人が『艶やかな人だったわね』と言った。確かに…母はお酒を飲めば陽気になる。楽しいことが好きで、お酒というよりその場の雰囲気が好きという感じで、本当に陽気な人ではあったが、『艶やか』とは少し驚いた。
そんな母を見送るかのように、茶毘に付されたその日、東京は春の嵐が吹き荒れていた。
桜はにぎやかに花びらを舞い上がらせていた。
艶やかだった母は、艶やかな桜吹雪の中、父のもとに旅立っていった。