第 3550 号2017.02.05
「 はじめて 」
小西 徹郎(鴻巣市)
部屋をひっくり返して掃除していたとき、
小学校時代に初めてもらったバレンタインチョコレートに
添えられていたメッセージカードがみつかった。
記憶が乏しいのだがそのメッセージカードに
僕はどうやら返信していたようだ。
なぜ僕が持っているのだろう、このカード。
水色の花柄のカード、今はもう古びてしまったカード。
丁寧に鉛筆で書きあった言葉のやりとり。
とても賢い彼女の筆致と筆跡。真面目に交わされた言葉、
そこには子供ながらの淡い恋心が見え隠れしていた。
40年近くも前のやりとり。そこに記された言葉は
いつもその瞬間を語っている。
それは時間を超えて今でも鮮明に飛び込んでくるのだ。
小学校卒業のとき、彼女は東京に引っ越していった。
ちょうどそのとき僕たちはケンカをしていて仲が悪かった。
妙に突っ張っていた僕は、彼女の連絡先も受け取らなかった。
そのことに後悔した僕は、後になってあちらこちらに
尋ねてまわったが、時既に遅しだった。
ところが、中学生になって同級生から、
彼女は目黒に引っ越したときいた。
そのことをずっと忘れることができなくて、
大学を卒業し、山口から上京したとき、
しばらく目黒近辺を歩いてみたり、
目黒で買い物することが増えた。
もしかしたらばったりと再会できるのではないだろうか?
と少しだけ、胸をときめかせていた。
でも、結局出会うことはなかった。
彼女の転校から40年近く経った。
今も彼女は元気なのだろうか?
あの屈託の無い笑顔は今もあるのだろうか?
今でもクラリネットを続けているのだろうか?
初めて手をつないで帰った日のことを覚えてるのだろうか?