第 3546 号2017.01.08
「 小さな腕時計 」
村山 七瀬(我孫子市)
駅のホームで、学校の廊下で。私は日常の中で、よく自分の腕時計に目をやる。たまに時間がずれることもあるけれど、長い間動き続けるこの金色の小さな腕時計は、祖母から受け継いだものだった。と言っても、母が祖母から授かったものを、母が私の中学校の入学の時に譲ってくれたのだ。
その時、クラスでは銀色の細いバンドの時計が流行っていた。だから私は、革製のバンドと金のフレームが気に入らず、「いらない」と無愛想に断ってしまった。
次の日、母が一枚の写真を見せてくれた。そこには、四十歳ぐらいの祖母が祖父と一緒に写っており、腕にはあの時計が光っていた。
「この時計はね、おばあちゃんがおじいちゃんから貰ったものなの。それを、私が結婚した頃に、私にくれたんだよ」と話してくれた。それを聞いて私は、身勝手な理由で断ってしまったことを後悔した。そして、母に頼み、長い時を経て思い出を蓄えた小さな腕時計を譲ってもらった。その時から私はずっとこの腕時計をつけている。陽の光を照り返す金のフレームと鈍く輝く革のバンドが、何だか誇らしかった。