第 3545 号2017.01.01
「 いざ明けてみれば 」
森 明日香(仙台市)
幼かった頃、お正月は特別だった。何より、親たちが緊張していたから、子ども心にもお正月とは厳かで敬うべき行事だと思っていた。
クリスマスにプレゼントをもらって喜んでいたのも束の間、子どもですら慌ただしい雰囲気に飲み込まれる。
冬休みの宿題はできるだけ年内に済ませておくように。
お正月になったら、親戚が来るんだからね。その時に宿題をしていたら恥ずかしいよ。
ゴミは今年のうちに出さなくちゃいけないから部屋を片付けなさい。
もう遊ばないオモチャは捨てて、雑誌やプリントはヒモで縛ってまとめておくんだよ。
台所をのぞけば、いつも母と祖母が忙しそうに何かを作り続けている。
茶の間では、父と祖父が神棚を掃除したり、障子の張り替えをしていたりして、これまた忙しそうだ。
お正月とは、何とも厄介なものだなあ。
子どもの癖にため息がでた。
やがて、準備ができていようと、できていなかろうと、時間が経てばお正月はきっかりやって来る。
途端に、がらりと雰囲気が変わる。
眉根を寄せていた親たちの表情が明るくなる。
親戚が来ている間は接待で大忙しだけど、お見送りをして片付けた後は何もすることはない。
何しろ、宿題は済ませてある。せいぜい書き初めと絵日記くらいだ。
クイズや歌謡ショーばかりテレビは子どもに退屈で、気がつけばぼんやり年賀状を眺めている。
あんなに気ぜわしい思いをしていたのに、明けてしまえばどうってことない。
お正月とは、意外と人騒がせなものだ。
けれど、この静寂と退屈を味わうために、年内は気持ちを高ぶらせているのかもしれない。