第 3543 号2016.12.18
「 愛しい家族 」
さくらゆきこ(ペンネーム)
我が家に子猫が来るきっかけは、当時仕事で悩んでいた夫と受験勉強で疲れていた息子を元気づけるためだった。
動物病院でご対面した彼は、特に器量がいいわけではなかったが、黒く長い尾とかつらをかぶったような顔がどこかひょうきん、しかも行儀はよく賢いということだった。
数日世話をしていて、彼が大変な臆病者でほとんど鳴かないということを発見した。それでも子猫らしく、じゃれたりおもちゃでも遊び、寝顔は本当に可愛い。家族に迎えたことで、家庭の空気は明るくなり、夫も息子も大いにいやされていた。
すでに猫を飼っている友人と猫友にもなりいかに我が家の彼が賢くいい子であるか自慢した時、彼女は笑い出した。
「まだ、お宅に来て一か月ぐらいでしょう?これからもともとの性格も現れてくるし、何より猫って飼い主の飼い方によって性格も決まっていくのよ。」
あれから五年、あの時は、半信半疑だったが、毎日私や家族が彼に話しかけていたことですっかり彼は、おしゃべりで自己主張をしっかりするようになっていた。ますます賢くもなり、我がままなマイペース振りも発揮している。食事がほしくなると、「ごはん」としゃべる彼に新しいキャットフードの缶を開けて与えると、大喜びですぐに食べる。が、冷蔵庫より残っていたキャットフードの缶を出そうとすると、その場を立ち去るのである。
花かつおを混ぜ、少しあたためるなどし、再び声をかけると戻ってきて食べる。なんとも世話のかかるおじさんに育ててしまった。
愚痴をこぼしながらも、今日もスーパーのペットフード売り場に行けば、喜ぶ姿が目に浮かび、彼のお気に入りのまぐろ缶をかごに入れてしまう私。すっかり猫のごきげんを伺う立場になってしまっている。