第 3540 号2016.11.27
「 いなりずし 」
山田 なお子(杉並区)
お休みの日に、時間があるといなりずしを作ります。
普段はバタバタと忙しいので、作り置きのスープや、簡単に出来る炒め物が多いのです。出来合いの揚げ物を買ってくる事もあります。罪滅ぼしでしょうか、家族の為に
「たまには丁寧なご飯を作りたいな」
と思い、作るのです。
でも、作っていると、不思議と豊かな気持ちになります。
ご飯を炊き、中に入れる具の人参やひじきやレンコンをいつもより丁寧に細かく刻み、歯ごたえを残し煮ます。次に油揚げを砂糖多めで甘辛く煮て、暫く味をなじませます。ご飯が冷めたら、具を混ぜて、すし酢をささっと振りかけさっくり混ぜます。ごまがあれば、散らしましょう。最後に、油揚げがやぶけないように、そっとそっと、まるで息をつめながら、油揚げの真ん中を開き、混ぜご飯をつめます。
出来上がったいなりずしは、ころんとして可愛く、小さなカピパラみたいです。沢山出来ると、カピパラが仲間で、のんびりおしゃべりしているようです。
カピパラならぬ、いなりずしを沢山作って、段々と積み上げていきます。仕事とは違う柔らかな達成感があります。そして、大皿に載せ、緑のものをあしらい、家族に持っていくと、照れたような笑顔で、嬉しそうに無言で食べるのです。
いつもよりも、時間がゆっくりと流れ、優しい顔の家族がいます。
その姿を見るのが好きで、私はいなりずしを作るのかもしれません。
私は何者にもなれなかったし、特に誇れる仕事や地位があるわけではありません。
でも、私の幸せがいなりずしの中につまっています。