第 3537 号2016.11.06
「 途中の駅 」
潮 なぎさ(稲城市)
ワタライさんと電車に乗る。簡単な商用だが、二人きりになったのは別れ話以来だ。つかの間の交際を解消して以降、お互い何もなかった顔をして仕事をしている。
昼下がりの車両にワタライさんと私は並んで立ち、世間話を交わす。
窓外の景色は段々と緑が深くなり、色づく葉も目立ってきた。
ある駅に停まる。
あの紅葉、きれいですね。私が外を示すと、何かに気づいたワタライさんが「ちょっと待って」と降り口に向かった。
若い女性がベビーカーを押して降りようとしているところだった。段差に引っかかって、うまく出せないである。ワタライさんはかがみこむと、ベビーカーの前の方を持ち上げ、ホームにそっと下ろした。
お礼を言う女性に軽く笑顔を見せて、ワタライさんが隣に戻ってきた。
「ごめん、何の話だっけ」
この人を好きなことがあって、よかったと思う。
紅葉が照っている。私も次の恋に進む頃かもしれない。