第 3529 号2016.09.11
「 数 」
田中 里英(ペンネーム)
「い~ち、に~い、ご~お、な~な、ろ~く」
幼い子の声がする。数を覚えたてなのかなぁ。
いつもお風呂の中で、きっと練習しているんだろうなぁ。
「い~ち、に~い、ご~お、な~な、ろ~く」
おいおい、まちがってるぞぉ。まぁ、でも、それでいいか。
今の君の世界の数は、きっとそういう風に並んでいるんだね。
君の世界は、1と2の次が5なんだよね。
7がきても6がきても、それは未来の世界の事だから、
順番が正しいかどうかなんて、君の中の誰も証明できないんだ。
大小もなければ順序なんて存在しない。
そんな世界で君は生きているんだ。
「い~ち、に~い、ご~お、な~な、ろ~く」
君は一つを過ぎ、二つを過ぎたんだね。
君の中に実在している数はその二つだけ。
だから、いつだって始まりは1で、次に来るのは間違いなく2だと、胸を張って言えるんだ。
それだけ確実なものがあるのだから、今の君は完璧だ。
「い~ち、に~い、ご~お、な~な、ろ~く」
僕たち大人は、どうしてこんな確実なものよりも、目に見えない数と未来にばかり、踊らされているんだろう。
僕たちが歩んできた道のりは君よりも何十倍もあるはずなのに、そんな数すら確実だと、本当に言いきれるのかなぁ。
「い~ち、に~い、ご~お、な~な、ろ~く」
君の可愛い声に、僕は一緒に指を折りながらもう一度数えてみる。1の次は2だけれど、次に来る本当の数はいったい何なのだろうねって。
ねぇ、一緒に考えてみようよ。
あの子のように、何度でも繰り返して。
次に来る本当の数は、いったい何なのだろうねって。