第 3528 号2016.09.04
「 我が家の福の神 」
渡会 雅(ペンネーム)
「お好み焼きにはやっぱりこれだよな」と言って、私が取り出したソース。袋に描かれたそのメーカーのトレードマークであるおたふくの絵を見て、五歳の孫が笑う。
「変てこな顔!」
息子の嫁は元漫画家で、その血を継いだのか、孫は色や形へのこだわりが強い。
二歳の頃、女房が趣味で集めているピエロの人形を和室の飾り棚に見つけた孫は、「怖い、怖い」と私にしがみついた。
夕焼けのような真っ赤な服、海のような真っ青な服などなど、それらは糸で手足を操ることが出来た。
「かわいい人形さんじゃないか」となだめても目を背ける孫に、私はピエロ達を押し入れに放り込んだのだった。
三歳の誕生日に買ってあげた三輪車もミッキーマウスの絵を見た途端、逃げ出した。
ピエロといい、ミッキーといい、どうやら真っ黒な大きな目が孫には気色悪い生き物に見えているらしかった。
「これはおたふくといって、人を笑わせて幸せにする顔なんだよ」と孫の頭を撫でながら、『笑門来福』という諺を私は思い浮かべる。
未熟児で産まれ、おまけに極端な偏食で手足が竹のように細く病気がちだった孫が最近何でも食べるようになって顔まで太った。
見栄えよりも健康、私には象さんの形にお好み焼きを焼く孫の笑顔が福の神に見える。
「平安時代はこの下ぶくれ美人顔で、かぐや姫だって、小野小町だって―」と薀蓄を傾ける私に、「あんたもその時代に生まれれば良かったわね」と孫をからかう嫁は目の覚めるような細面の美人だ。