第 3517 号2016.06.19
「 母のような父 」
M・A(ペンネーム)
イクメンという言葉がもてはやされるようになった時、
「そうか、父がそうだったのか」
心から納得しました。
せいぜい、子煩悩。母のような父、と私は思っていました。
恐らく、母も男性と同様に働いていたことも理由の一つでしょう。
けれど、父は家事と育児が性に合っていたのです。世話をされている私にも伝わりました。
思い起こすのは遠足に出かける日。
母と並んで、父も台所に立っていました。
お煮しめ。しょう油を入れた玉子焼き。
父が作るおかずは茶色いので、すぐにわかります。それが私には少し恥ずかしくて、有り難いことだとは思い至りませんでした。
あれは、母が出勤して、父だけが家にいた時のことです。
私と妹、弟を連れて、見晴らしのいい山に連れて行ってくれました。
春だったと記憶しています。風が柔らかくて、緑の葉が揺れていましたから。
父は、スーパーで買ったお稲荷さんを分けてくれました。いつも自宅で油揚げを煮ていましたから、スーパーのお稲荷さんがとても新鮮に感じられました。
今日は、お弁当を用意する暇がなかったんだ。
そんな風に思った私は、少し大人びていたのかもしれません。
結婚して専業主婦となった私は、ようやく父が特別な人だったことに気がつきました。夫は、帰宅すると箸より重い物を持とうとしませんでしたから。
嬉々として子供に関わっていた父は、元祖イクメンでした。