第 3516 号2016.06.12
「 くしゃみ 」
霧島ひさえ(入間市)
わたしの父は、大きなくしゃみをする人だった。
そして、大きなくしゃみの後に必ず大きな声で「こんちくしょう」と言った。怒っているのではなく、くしゃみとセットになっていた。
父は、富山県の生まれではあるが、その後暖簾分けされて結婚。東京の下町「竹町」という処で商売をはじめ、わたしはそこで七番目の子として生まれた。
父は一代目だから江戸っ子とは言えないが、下町暮らしが長かったので下町の気風を持っていた。その娘であるわたしも小さい時から好奇心が旺盛で、消防サイレンが鳴ればすっ飛んで行くし、お祭りと言えば血が騒ぐ方で、それは大人になっても変わらない。そんな父のくしゃみはびっくりする位豪快で、体は小さく無口な人だったがくしゃみだけは大きかった。犬もびっくりして跳びあがった。
母は、くしゃみの後は何も言わなかったが、くしゃみと咳がセットになっていて面白い顔になっていた。
ところが、最近のわたしのくしゃみが母に似てきたなーと苦笑いすることがある。
くしゃみと言うのは、性格が十人十色であると一緒でそれぞれに個性があるもんだと思う。思い切り吐き出すくしゃみ、押し殺して鼻の奥の方に大切にしまいながらくぐもったようにするくしゃみ、一回で終わるくしゃみもあれば、続けざまに5・6回は出るくしゃみと千差万別。
体質もあるだろうし、風邪ひきの場合は別にして、他人に迷惑を掛けなければ対外に出す方が気分的にすっきりする。
今のところ父の「こんちくしょう」くしゃみを受け継いでいる身内はいないが、母のくしゃみは確実に娘のわたしが遺伝子をキャッチしてしまったようだ。
くしゃみまで遺伝するものかと不思議に思う。