「 喜びのおすそ分け 」
あおい(ペンネーム)
コロコロン・・・と、かわいい音を立てて、デパートの地下でお菓子を選んでいる私の足下にボタンがひとつ転がってきました。思わず手に取ってみますと、色使いの美しい、凝ったデザインのボタンです。
「こんなめずらしいボタン、なくしてしまわれたらお困りだろうな。」
そう思って辺りを見回すと、少し離れたショーケースの前でお買い物をされている女性に目がとまりました。
「あちらの方のボタンではないかしら?」と、ボタンを手に近づいてみましたが、その方はケースの方を向いていらっしゃるので、確信が持てません。少し迷いましたが思い切って、
「こちらのボタンを拾ったのですが…」
と声をおかけしてみました。すると、
「まあ、どうもありがとう!助かりました、本当にどうもありがとうございます!」
と、たいへん喜んでくださいました。思い切って声をおかけしてよかったと、私までうれしくなりました。
それから数日後のことです。外出先での用事に思いの外時間がとられ、私は夕暮れ時の街を、急いで自宅へと向かっていました。
家の近くでほっと一息つき、何気なくバッグに目をやると、ハンドルに結び付いていたはずのスカーフがありません。
「途中で落としてしまったんだわ。どうしよう!」
愛用の品でしたが、探しに戻ると帰りが遅くなってしまうし、
その日は風も強く、すでにどこかへ飛ばされてしまっているのかもしれない・・・。思案の末、大通りまで戻って見つからなかったら諦めようと、来た道を早足に戻りました。
すると、なんということでしょう。スカーフがガードレールに結ばれて、夕陽を浴びながら風に揺れていたのです。すぐ目につくようにと、風の飛ばされぬようにと、通りがかりの方が結んでおいてくださったのでしょう。見知らぬ方の温かな心遣いがとてもうれしく、心にしみました。