第 3505 号2016.03.27
「 リクルートスーツ 」
森 ゆう子(ペンネーム)
電車の中、一人の女の子に目がとまった。
リクルートスーツに身を包み、びしっとまとめられた黒髪に、
控えめなメイクをして、ローヒールのパンプスを履いている。
明らかに、就職活動中の学生だ。
その晩、私は、机の引き出しの中をひっかきまわした。
封筒の中からぴらぴらと落ちてきた、数枚の履歴書用写真。
これは、かつて、就職活動で使ったもの。
そこには、10年前の自分がいる。
初めてのスーツを着て、緊張した表情の私。
けれども、未来への希望に胸をふくらませているのか、
引きつった面持ちでも、目だけはキラキラと輝いている。
写真の彼女に聞いてみたい。
「あなたが想っている未来に、今の私はなっているかい?」
数日後の、帰宅途中。
ぐったりと電車の手すりに寄りかかる、リクルートスーツの学生
が、再び目に入ってきた。
「負けるなよ!」
心の中で声をかけ、私はホームを後にした。