「 祖父と私と二羽の鶴 」
平野理佳(ペンネーム)
久しぶりに行った祖母の家。草花の咲く庭には、石でできた鶴が二羽。一羽は羽を大きく広げ、もう一羽は呼応するようにお辞儀している。
「一羽じゃ、かわいそうだからダメだよ」
二羽の鶴を見ると、祖父の困った顔を思い出す。
あれは、私が八歳のとき。母の仕事で、祖父母宅に預けられた私は、祖母が買い物に出ていたため、人生で初めて祖父と二人きりになった。八歳の私にとって祖父はほとんど笑わない、少し怖いおじいちゃんだった。
緊張してうつむく私に、祖父は庭に出ようと声をかけた。
赤や黄色のチューリップ、紫や白のパンジーが咲く庭には、鶴の置物石もあった。驚くことに、花を育てたのは祖父だった。怖いおじいちゃんの意外な一面を知った私は、うれしさのあまり緊張するのを忘れてしまった。「どれでもほしいものをあげるよ」と言われ、二羽の鶴をねだったのだ。祖父のどれでもは、もちろん花を指していたのだが、当時の私は、庭にあるものはどれでももらえると思い込んでしまったのだ。祖父の困った顔を見た私は、「一羽だけでもいいから」と食い下がった。すると祖父は「一羽じゃ、かわいそうだからダメだよ」と言ったのだ。
一羽じゃ、かわいそう?
理由を聞こうとしたが、祖父は家に入ってしまった。ちょうど帰宅した祖母に、私は祖父とのやりとりを話した。聞き終えた祖母は、なぜかとてもうれしそうだった。そして、教えてくれた。二羽の鶴は、自分とおじいちゃんなのだと。鶴の夫婦は仲良く一生を添いとげることから、自分たちも鶴の夫婦のようになろうと約束して、石を庭に置いたことを。
私は、恥ずかしくなった。
祖父と祖母、二人を引き離そうとしていたのだと思うと、涙が止まらなかった。
「その時が来たら、理佳ちゃんにも鶴を贈るよ」
泣きながら謝る私の頭を、祖父はそっとなでてくれた。
祖父は五年前に亡くなった。二羽の鶴は、今も四季の花に囲まれている。