第 3492 号2015.12.27
「 使えない千円札 」
仲途 帆波(ペンネーム)
師走のうすら寒い日に本箱の引き出しを整理していたら、折りたたんだ千円札の入った小さな紙袋が出てきた。
表に幼稚な字で「大パパへ、お年玉です」と書いてある。
ああ、あのときのプレゼントだったか、と3年前のことを思い出した。
嫁いだ娘が車で40分位の所に住んでおり、時折姉妹を連れて顔を出す。近くににある美味しいパン屋さんが好みで、いろいろ見つくろって買い帰っていく。
あるときクリスマスのイベントで、そのベーカリーで低学年の小学生アルバイトの募集があったらしく、妹(3年生)の方に聞いて参加させた。
妻はパンを落っことしたり、代金の勘定を間違えないかと心配したが、母親の方は全然きにしていない。その内に2時間ほどして、パンを貰って戻ってきた。
焼きたてのパンの香りに包まれたバイトは、とても楽しかったと言う。特に失敗はなかったらしい。ベテランの店員さんがそばに付いているから当然だが…。
生まれて初めてのバイト代は千円、それを用意していたらしい紙袋に入れて、私に差し出したので、嬉しいというより仰天した。
後で娘に事情を聞いてみて分かった。夫の実家で子供たちがお年玉を貰うのを見ていたじいじが「羨ましいな、じいじも欲しいな」(勿論冗談)と言っていたのを覚えていて、大人もお年玉が欲しいんだと感じたらしい。(なお当家では夫の家のじいじ・ばぁばと区別して、大パパ・大ママと呼ばせている)。
その孫も、中学に入学する。そのお祝いに私から千円の10倍の図書券を贈ろうと思っている。紙袋の千円札は勿体なくて使えない。
妻に話せば、笑われるに決まっている。夫婦の間でも弱みを見せないのが私の流儀、自分から株価を下げることもない。