第 3491 号2015.12.20
「 つごもり小景 」
M・A(ペンネーム)
年越しの蕎麦を外で食べたことがない。
子供の頃から大晦日の夕飯は天ぷら蕎麦と決まっていて、家族そろって丼を囲んできた。
その日だけは夜更かしを許されたことから、長く起きていると小腹が空いてくる。
「そろそろお湯を沸かそうか」
紅白歌合戦を見ながらカップラーメンを食べるのが我が家の風習だった。
夫がどのように大晦日を過ごしてきたのかは知らない。
食を司る主婦の力は強く、結婚生活十八年、私は実家と同じ過ごし方を貫いてきた。
高校生と中学生の息子たちは何の疑問も持っていない。夕飯に天ぷら蕎麦を食べ、お笑い番組が頂点に達する頃にごそごそカップラーメンの準備を始める。
いつか、息子たちは家を出る。もしも誰かと暮らすのならば、新たな大晦日の風習に触れることになるだろう。
蕎麦を有名店で食べるようになるかもしれない。
カップラーメンなどもってのほかだと取り上げられるだろうか。
ひっそりと夫と二人きりで過ごす大晦日も遠くはない。
海老一本、薩摩芋ひとかけらを分け合う年齢になっても、きっと私は同じものを用意するのだろう。