第 3488 号2015.11.29
「 四歳の悪戯 」
渡会 雅(ペンネーム)
「何てことするの!」と和室から嫁の絶叫。
保育園に通う孫がこけしにマジックインキを塗りたくっていたのだ。
「ジイジからもらったお土産なのに」
震災の被災地支援の一助になればと東北を旅行した折、宮城県の鳴子温泉で私が買い求めた孫の顔とよく似たこけし。
「なんてブスのお人形なの。お口がこんなに小さくて、ブタさんみたいなまん丸顔」と、孫は箱の蓋を開けるなり顔をしかめたのだったが……。
「こんな悪戯、許さないわよ。こけしさんにもジイジにも謝りなさい」と、孫の肩を掴んで離さない嫁。
さてどうしたものかと思案する私を孫の言葉が拍子抜けさせた。
「だって、お化粧してママのようにきれいな顔にしたかったの」
そして、ワッと泣き出した。
「まったく、もう」と唇を尖らせはしたが、ちょっと照れ顔で嫁は「ありがとね」と孫を胸に引き寄せた。
(私は嫁のそういうところが気に入っている。)
……そう言えば、私だって子供の頃、雛人形とかこけしがまるで命を持っているように不気味で、つい悪戯をしたくなったものだ。しかし、赤く塗られた大きな唇、長い睫毛、ピンクの頬紅……こけしはどう見ても孫が世界一きれいだと自慢するママの顔とは程遠かった。
孫が女の子から少女、さらに自分の欠点をママのように化粧で見事に偽装出来る女性になるまでまだまだ先は長い。