第 3481 号2015.10.11
「 風たちぬ 」
石神なつき(ペンネーム)
小学2年生になった息子は、スーパーでの買い物に付いて来なくなった。学校から帰るなり、ポイとランドセルを放り出して遊びに行く。
夫は勤め先で古株となり、任される仕事も増え帰りが遅い。加えて趣味のゴルフに忙しく、土日も出掛けることが多い。
確かに手が掛からなくなったとはいえ、生活のためにあれこれに、息子にはまだまだ私の手助けがいる。
家にいる時間が少ない夫とはいえ、ワイシャツにアイロンをかけるのは私の日課であるし、つつがない毎日を、繰り返す毎日の雑事の積み重ねで成り立ててゆくのが私の仕事だ。
無我夢中で子育てをしてきたこの7年間。最近ふと手が空くと胸の中に空洞があって、そこを風が吹き抜けて行く。
結婚したての頃は、どこへ行くのも夫婦一緒で、そのくせ自分と違う価値観が理解できず、ぶつかり、譲り合う日々。
そして子供が産まれ、何よりその存在を優先する生活が続いた。
様々な人に支えられて生きていることを知り、世界がぐんと深く、広くなった。
しかしその中で、良かれと思いまるで一家の管理人のように細々と、時に口やかましく生活をコントロールしてきた自分。妻であり、母であるとはそういうものだと思ってきた。
でも、もう良いのではないか。力んでいた肩をそっと緩める。
母でもない、妻でもない自分が以前は確かにいたはずだ。
そんな私は本来冒険好きで、行き当たりばったりで、でも毎日が新鮮に輝いていたではないか。
これから少しずつ、私は母や妻を卒業してゆくだろう。
月日と共に、家族の形も変わってゆくのだろう。
そう思うと、深まる秋の風が寂しさと一緒にワクワクした気持ちを胸に運んできた。