第 3471 号2015.08.02
「 スイカ争奪戦 」
ゆかり(ペンネーム)
夏が来ると思い出す、スイカ争奪戦。
今はもう食べる気さえしなくなった赤い色をしたみずみずしい食べ物も、その頃の私には大好物。
いかにたくさん口に含み、どれほど早く種を出すか、今、思い出すだけでも可笑しくなる。
発端は亡き父のスイカ好きから。
父にスイカを選ばせたら、ピカイチ。バズレた事がない。
親指と人差し指でコンコンと叩き、その音でスイカの熟れ具合を判断する。
父の選んだスイカはいつもちょうどいい食べごろで、甘い。
私も真似ては見るが、なかなか当たらない。
やはりスイカ選びも熟練された勘が必要なのだと子供ながらに思った。
そんな父のスイカを食す姿の名人芸のような早技が当時の幼い私には鮮烈で格好良かった。
子供らしい発想ではあるが、心からそう思っていたのだ。
スイカが食卓に並ぶと、さぁ大変。宿題の手を止め、見ていたテレビもお預け。
さぁ、戦いの始まり。早く、早くと心が焦る。
いつしか父を私の一騎打ち。
よくもまぁ、こんなに食べてお腹をこわさないものだと感心するほど食べた。
おそらく、あの頃も一生分のスイカを食べてしまった気がする。
そのせいか、今の私はスイカを口に運ぶ気さえしない。
それでもスイカを目にする度、父とのあの戦いが脳裏に蘇り、心がじんわりと温かくなるのである。