第 3470 号2015.07.26
「 時代 」
ベル(ペンネーム)
久し振りに 都心に向かおうと
私鉄電車に乗った
真夏のまとわりつく熱風にげんなりしながら
乗り込んだ車内の冷風は
その暑さから解放される程の心地良さだった
ある午後の昼下がり
数人のサラリーマン風の男達が
吊革につかまりながら憂うつな表情でボソボソと話をしている
ドア付近の空いた席にもたれ
私は 何とも言えない不可思議な雰囲気に
違和感を覚えていた
見ると 前の席に座る人達の仕草が一様に
同じなのに気が付くのだった
携帯電話なのかそれとも今流行の「スマホ」と
呼ばれているものなのか一
ともかく 皆そろって小さな画面を凝視しながら
片手を「シュー シューッ」と小刻みに動かしているではないか!!
何と驚くことに 前の席に座っている人達みんなが
同じ動作なのだ!!
この異次元の光景は・・・?!
そこに溶け込むことのできない私は・・・
私の存在とはいったい何なのであろうか―
ふと 不安な陽炎(かげろう)が胸をよぎった
そんな思いを持ちながら
膝の上に置いた文庫本のページを開いてみた
老眼鏡をかけなおし 文字を追っていくものの
その文字は解読不明の記号のようで理解することができなかった
時代は確実に移り変わり異次元の存在とは実は 実のところ自分自身であることに「はっ!!」と気が付くのだった