第 3468 号2015.07.12
「 人の縁 」
長坂 隆雄(船橋市)
過日、見知らぬ初老紳士の訪問を受けた。
頂いた名刺を見ると、某大学の学長で、私にとっては全く無縁の人であった。
話を伺った処、亡くなられた父君の残された回顧録によると、南米滞在当時、高山病にかかり、私の世話になったとの記録があり、暫く住所が判明したので、その礼に伺ったとの事であった。
半世紀以上の昔の事であるが、商社駐在員として中南米各地を転々としていた当時、ボリビアの地方都市コチャバンバの空港でご一緒した老紳士の記憶があった。
終戦後まもなく、外貨不足により海外渡航も容易に認可されない時代であり、南米の地コチャバンバで日本人との遭遇は奇跡とも言える状況であった。
ラパス空港に到着と同時に、急遽高山病に冒され苦悩される老紳士を、私の滞在するホテルに案内し介抱した記憶が蘇ってきた。
ラパス空港は世界最高の空港であり、高度4000メートルを越え、酸素希薄により高山病に冒される人の多い事で有名である。
頭の割れる様な激痛と吐き気に冒され、その苦しみは想像を絶するものである。
老紳士は、宗教家として有名なT大学の教授であった。併し、私は先生がその様な有名な方である事など知る由もなかった。
ブラジル在住の日系人に対して、サンパウロの日伯寺の建設を始め、南米各地の移住者を訪れ布教活動に専念されていた。
その後、先生と二度とお会いする機会はなく、私の記憶から先生の想い出は殆ど消え去っていた。
数々の要職にありながら、貴重な時間を割いて、半世紀を越える昔日の、人として当然の私のささやかな行為にも拘わらず、丁重な感謝の言葉を頂き感動すると共に、人の縁を改めて感じた。