第 3459 号2015.05.10
「 少しだけ親孝行 」
M・A(ペンネーム)
ある懸賞に応募してみたら、大江戸博物館のペアチケットが当たりました。
とても見に行きたいけれど、私には上京する時間がありません。
そこで、チケットを実家の母に送りました。
「少し早いけど誕生日プレゼントのつもりにして」と。
受け取った母は大喜び。
「どうもありがとう。お友達を誘って行ってくるわ」
電話の声は弾んでいました。
母は七十を過ぎましたが、大の歌舞伎ファンでしょっちゅう東京まで出かけています。
「新幹線だもの、楽なものよ」
まるで隣町へ行くような気楽さです。
いつも元気で前向きな母ですが、その人生は病魔との戦いの連続でした。
仕事をしながら長男の嫁として家の中を仕切っていたのですから、限界に達するまで身も心も酷使していたのでしょう。
私が中学、高校、大学へ入学するたびに、まるで節目のように入院していました。何度か手術も受けましが、いつも乗り越えて
家に戻ってきました。
「親より先に死ぬわけにはいかない」
九十まで生きた祖母を見送ったあとは、
「孫の結婚式に出るまでは」
新しい目標を掲げています。
仲の良い友達と、母は得意げに博物館の中を歩くことでしょう。
「このチケット、娘が当てたの。私のためにね」と。
終わりよければすべて良し。
孝行娘のレッテルを貼ってもらったのですから、そういうことにしておきましょう。