第 3457 号2015.04.26
「 春の庭で 」
田川 哲子(小平市)
朝、五時過ぎ、カーテンの向こうが白白してきて鳥たちのさえずりが耳に入ってくる。春になりいつの間にか夜明けが早くなった。
このところ、私は少し寝坊だ。
以前は、未明というには、まだ早過ぎるうちから犬と散歩に出ていた。夜空に星がまばたくような時間が多かった。
愛犬ごんすけは、転校が続いた子どもたちにせがまれて、引き取り手がない犬ならという条件で我が家に来ることになった中型のミックス犬。よく吠える犬で、歳とともに痴呆も入り、更に晩年は病に苦しみ、昼夜問わずに吠えた。犬も人間と同じように老化が来る。足腰から始まり、目も白濁して見えなくなり、あれほど敏感だった耳も遠くなって、鼻はかなり利きが悪くなっていた。
かろうじて最後まで機能していたのは、口だった。その口で、彼は自分の要求を懸命に伝えてきた。
近所迷惑にならにようにと、夜は家にいれた。私はいつでも飛び起きて散歩に行けるように寝間着の代わりにジャージに着替え、彼の寝室となる玄関の脇の部屋で寝た。
春、我が家の庭は、鳥たちに人気のスポットだった。カラス、ハト、スズメなど巣作りを始めた鳥たちがかわるがわるやってきて、庭に散らばっている犬の抜け毛を口にくわえてせっせと運んでいく。お前も少しは他人様の役にたっているんだねとごんすけに話しかけた。臭いけれどふわりとした居心地のいい巣になるだろうなぁと想像してにんまりする。犬も若い頃は威嚇したり追い払ったりしていたけれど、歳をとると寝そべったまま薄目を開ける程度で、だんだん訪問客に寛容になった。
彼が十八年の生涯を閉じて一年が過ぎた。今年は少し寂しい春の庭。
お気に入りだった桜の木の下にそろそろ遺骨を埋葬しようと思う。