第 3453 号2015.03.29
「 おばあちゃんのがま口 」
奥平 玲子(山形県寒河江市)
私の家は山形県の最上33所第16番の札所寺です。
今年は秘仏である十一面観音様の御開帳ということで、全国から参拝の方々がたくさんお見えになっています。
今朝のことです。
昨日も参拝にいらした1人の男性が忘れ物を探しにいらっしゃいました。茶色の革のがま口で、留め金が金色の小さなものです。ここでなくしたかどうかはわかりませんが、と。
でもいくら探しても見つかりません。
「もし見つかりましたらお送りしますので、ご住所をお知らせください」
その方のがっかりした後ろ姿を見て、私はついそう言って名刺をいただきました。
《がま口が思い出の品なので、見つかれば嬉しいです》と書かれていた名刺には遠い四国高知市の住所が書かれていました。休みも今日で終わり、帰路に付けなければならないようです。
近くでもう一ヶ寺御開帳をしている慈恩寺にもきのう参拝されたということで、連絡をして聞いてみるということを約束してお別れしました。
その後、慈恩寺に連絡すると忘れ物の中にそのがま口があったということで、私は自分のことのように嬉しくなり、その方に早速見つかった由メールを差し上げました。
その後の返信メールには
この小銭入れは亡き祖母が四国遍路に使ったものでした。
何か祖母の供養にもなるような気がして、今回の山形県のお寺参りでもお賽銭を入れて持参した次第です。それを遺失することとなり、寂しい気持ちでいっぱいでした。
見つかってこの上なく幸せを感じておりますと。
翌日「おばあちゃんをお届けします。またご一緒に巡礼の旅を」とお便りを入れてお送りしたした。
優しいおばあちゃんと優しいお孫さんとの心のつながりに、、私まで優しい気持ちになり豊かな一日を過ごすことができました。
きっと観音様が見つけてくださったのですね。