第 3449 号2015.03.01
「 ひとり暮らし 」
月 子(ペンネーム)
震災がきっかけで3年ほど一緒に住んでいた恋人と別れ、ひとり暮らしを始めた。
それまで住んでいたところは、商店街の中にあるほぼ新築の設備もしっかりとしたきれいなマンションだけど、ひとりで住み始めたマンションは、静かな住宅街の中の築年数15年強の古いマンションで、もちろん設備はそんなに整っていない。
部屋の中も今までの住人の残していった傷や汚れがあり、住む前にハウスクリーニングが入っているとはいえ、ある程度の清潔感はあるけれど、決してきれいではなかった。
住宅街の中なので、帰り道も部屋の中にいる時でさえも、私を心細くさせた。
その恋人と付き合う前から猫を飼っていて、部屋が片付いてから引き取ることにしたので、猫は元恋人の部屋に預けたままにしていた。
1週間から10日くらいなのでだいじょうぶだろうと思っていたら、元恋人から連絡があり、猫が家具で爪を研いで困ると言ってきた。
爪とぎを用意してくれとも言いにくかったので、まだ部屋は片付いていなかったけれど、猫を引き取ることにした。
最初に猫をその部屋に入れた時のことを、とてもよく覚えている。私のさみしさが一瞬でなくなって、それまで暗く心細かった部屋が、まるでワット数を上げた電気を灯したように、部屋がぱあっと明るくなったのだ。比喩でもなんでもなく。
心細く他人行儀な感じの部屋が、自分の部屋になった瞬間だった。
猫なんて小さな生き物なのに、そこに宿る生命の力はなんて大きいのだろう。
生きているものの力を目の前で感じた。
こんなに素晴らしい瞬間を見せてくれた猫に、たまにはご褒美で缶詰あげないとな。