第 3447 号2015.02.15
「 愛 」
渡会 雅(ペンネーム)
『こわれもの ゆうパック』と、赤いシールの貼られた宅急便が息子の元に届いた。送り主には女性の名前。軽くて小さな荷物の中身はいったい何だろうかと興味津々の私に息子は憮然とした。
「もうとっくにこわれてるよ」
送られてきたのは買ったときのまま上等なケースに入ったダイヤの婚約指輪だった。
同じ職場で知り合って半年余り同棲している間、彼女の作る料理に辟易しながらも愚痴一つこぼさず我慢をしてきたという息子。
喧嘩別れをしたのは彼女の誕生日で、その夜息子が彼女のために心を込めて焼いたハート型のお好み焼きが彼女の怒りを爆発させた。
「せっかくの誕生日にお好み焼き?料理の出来る男なんて大嫌い!」と。
息子は高校生の頃から食べ物うるさく、餃子でもハンバーグでも何でも自分で作れる。特に魚介類入りパスタは玄人はだしなのだが、食い意地のはった男が女にもてるもんかと忸怩たる思いで息子を眺めていた私。
「それにしてもシャレの分かる女の子じゃないか。確かに『愛』は取扱い注意の『こわれもの』だな」と関心する私に、息子は苦笑した。
「この世で一番頑丈な石でも脆いものだね。たかがお好み焼きでぶっ壊れるんだからな」
一その息子が「家事は分業ね、炊事はあなた、育児洗濯は私」と何のこだわりもなく微笑むキャリアウーマンと結婚して、私は今ホッとしている。