第 3445 号2015.02.01
「 超後期高齢者が席を譲って 」
長坂 隆雄(船橋市)
最近は殆どの車輌に、高齢者や身体の不自由な人への優先席が設定される様になった。
併し、私は混雑する車輌に乗っても、未だ席を譲ってもらった経験はない。
この2月で84歳になり、超後期高齢者となったが、身体の各機能が平均して衰えてきたせいか、特別に治療する箇所がないのは幸福と言うべきだろう。
先日、電車に乗った。企業の退社時刻に重なったせいか、車内は相当混雑していた。
勤務帰りのせいか、乗客は居眠りしている人も多く、疲労の色が漂っていた。
そこに幼児を抱いた若い母親が乗って来て、私の席の近くに立った。列車の発車と同時に、母親は荷物を片手に、一方の手で必死に取っ手をつかんでいた。
席を代わってあげようとする人はいないかと思って周囲を見渡したが、誰もが目をつむり無関心をよそおっていた。
『後期高齢者が席を譲っても非難される筈はないだろう』と思った私は、意を決して立ち上がり、母親に席を譲る事にした。
一瞬、私の顔を見て、若い母親は逡巡し、躊躇した様である。
併し、『どうぞ、私は次で降りますから』と言うと、頭を下げて素直に席についてくれた。
母親のほっとした顔と同時に、回りに複雑で奇妙な空気が流れた様に感じた。
私は、その場を離れそっと後部へと移動した。私の下車駅までには尚半時間近い時が必要であった。
超後期高齢者が座席を譲る微妙さを感じた一時である。
併し、同時に後期高齢者にして、席を代われる健康の幸せをしみじみ感じた。