第 3442 号2015.01.11
「 富士山と河口湖 」
T N(ペンネーム)
この冬、夫婦二人で、河口湖畔にあるホテルへ1泊で出掛けた。
ホテルの全ての部屋の窓から、富士山が目の前にみえる。厳粛に、堂々と立っている。一片の雲さえ無く、青空に突き抜けて、白い富士が立つ。
富士はいい。あらためて、そう思う。日本人だけでなく、外国人もそうであるそうだ。
ホテルの露天風呂に入った。地下千メートルの深さから掘った温泉がこんこんと湧き、垣根のむこうに、富士のてっぺんが夕焼けの中に輝く。闇が次第に迫り、富士の姿が次第にかすんでくる。こちらも、湯あがってしまうとまずいので、そろりそろりとあがり、夕餇に向かう。
翌日は、昨日と同じような天を突きぬける冬晴れであった。チェックアウトして、河口湖を車でぐるっとまわった。どの角度からも、富士が目の前に大きく立ちはだかり、その優美な姿を際立たせる。
美しい、綺麗だ、天女のようだ、形容詞が見当たらない。
我々は、半日を河口湖の回りで、富士を見ながら過ごした。
逆さ富士 ― シンメトリックな形、こういう造形を人間はおそらく現出できないだろう。自然こそが、作り上げることが出来る。
我々は、胸に、富士が満たされて、帰途に着くことにした。富士を後に、高速道路に乗ると、もう富士の姿は拝めない。袖を引かれる思いとはこういうものかと、残念な気持ちがよぎる。
富士こそ日本一の山だ、そう思って帰って来た。