第 3431 号2014.10.26
「 秋の庭 」
渡会 雅(ペンネーム)
高校生のカップルが家の前を通りかかった。
女の子の方が垣根の隙間から覗く我が家の愛犬に気がついて、
「まあ、かわいい」と傍に寄った。
屈み込んで、犬の頭を撫でながら、男の子の視線を待つ微妙な間…。
けれど、男の子は犬に関心がないらしく、しきりと携帯電話をいじくりながらさっさと先に歩いていく。
置いてきぼりをくった女の子はすっと立ち上がると、いきなり犬にアカンベーをし、「待ってよ!」と甘え声を発しながら、男の子の背中を追って駆け出した。
盗み見する気などなかったのだが、二階のベランダから庭のコスモスを眺めていた私は目に飛び込んできたアカンベーにビックリし、それから笑いをこらえるのに往生した。
なんて可愛いんだろう!
淡いコスモスの花のような舌もさることながら、何より男の子の前ではかわいい子ぶるハートの初々しさ。きっと犬を可愛がる私を可愛いと見てほしかったのだろう。
…先日、中学校の同窓会があって、五十年ぶりにかつて胸を焦がした美少女に再会した。ビア樽のようになった腹を揺すりながら、「いつの間にか大阪のおばちゃんになってしまったわよ」と大笑いした彼女。
その顔を件の高校生に重ねた私だった。