「 みちくさの小鳥ちゃん 」
有賀 千砂(長野県伊那市)
ある秋の日の夕方のこと、わずかに実っているミニトマトをとりに畑に行った。すると畑の北側の道に面して一列にラベンダーを植えてある内側に、三人の子どもたちが入りこみ、うちのラズベリーをとっている。
畑の端にいる私には、まだ気がついていない。
「あった~。」
と声をあげて、うれしそうに赤い実を食べている。かばんを背負った小学校低学年くらいの男の子一人と女の子二人。面白いので、ミニトマトをとるふりをしながら見ていた。
ようやく子どもたちは私に気づくと、三人とも直立して
「こんにちは~。」と大きな声で言った。
「こんにちは~。おいしい?」私も大きな声で聞くと
「はいっ。」と元気に答える。
食べられる実が残っていただろうかと、近寄って見に行った。
「ラズベリーは食べていいけど、しっかりしているいい実を選んでね。」
「じゃあこれは?これは?」
男の子はいちいち実を見せては尋ねる。片手に遅咲きのラベンダーの花を握りしめて。
「その花の名前知ってる?」と聞くと
「知らないけど、お母さんが好きな花。」と言う。
女の子の方が大人っぽくて、
「ここは畑ですか?ラズベリー植えているんですか?」「家はどこですか?」
いろいろ質問してくる。そのうちに女の子が言った。
「さっき、この子の手にとげが刺さっちゃったんです。」
男の子の人さし指の腹に、黒い小さなものが見えた。
「家に帰ってから、お母さんに針で抜いてもらった方がいいんじゃない?」と逃げようとしたが、やはり放ってもおけず、爪の先で押し出してみた。
しばらく格闘したら、とれたようでほっとした。
子どもたちは楽しいのか、ちっとも帰ろうとしない。私は寒くなってきたので、家に戻ることにした。
「全部食べないで残しておいて、明日また食べようよ。」
女の子たちの声が聞こえた。
そのあともラズベリーがなくなっているのを見ると、みちくさの小鳥ちゃんたちがついばんだのね、とほほえましい。