「 秋の朝顔 」
中野 弥生(ペンネーム)
「今日は朝顔が30こ咲いたよ」
毎朝、小学4年の息子が朝顔の花を数えてから、学校へ出かける。秋も深まったというのに、庭から2階のベランダまで伸びた枝には、まだ赤色と群青色の花が咲き続けている。
息子が1年の時に、学校で育てた朝顔の鉢を持ち帰ったのが始まりだった。毎年種を採って、鉢植えにしてきたが、今年は、息子の提案で、地面から二階のベランダまで、紐を張って、朝顔のグリーン・カーテンにすることになった。育ち始めは、雨や風で倒れてしまうほど心細い時期もあったが、そのうちぐんぐんと茎を伸ばし、葉を茂らせて、上へ上へと伸びていった。
今年の夏の暑さは特に厳しかった。朝に水をやっていても、朝顔の葉は、昼頃にはしおれかかったようになる。それでも、夕方に水をやると、シャンとなって、つぼみをふくらませる。連日、七、八十もの立派な花が咲いて、家の前を通りかかった方が、立ち止まって写真を撮ったりするほどだった。
朝晩に水をやるのが私の日課になったが、毎日見ているうちに、考えさせられたことがある。鉢に植えていた時には、1メートルほどの支柱に絡みついて、それなりに立派な花を咲かせた。ところが、今年は、数メートルの高さまで達して日陰を作ってくれただけでなく、秋になっても花を咲かせ続けている。
実のところ、朝顔がこんなに大きく育つとは思ってもいなかったのだ。鉢に植えれば、その器に合わせて育つが、環境を変えて、育て方を考えれば、こんなに力強く、沢山の花を咲かせる能力を秘めていたのだった。生意気盛りの男の子を相手に、つい些細なことに小言が多くなるが、朝顔から、もっと可能性を信じなさいと、子育てのヒントをもらったような気がする。
そんな母親の思いは知らず、息子は朝顔の葉陰でカマキリを見つけて喜んだり、葉に止まっている大きな蛾は、幼虫が朝顔の葉を食べるエビガラスズメだと生意気に説明してくれる…。