第 3402 号2014.04.06
「 小春日和の並木道にて 」
レア(ペンネーム)
カーテンの向こうから朝日が通り抜けて、まだ薄暗い部屋に、新しい一日の始まりを告げる。
軽快な音をたててカーテンを開け、曇ったガラス窓を開けると、冷たくも清々しい朝の空気と、眩しい朝日が、一気に部屋を満たす。
急いで支度を済ませ、外に出る。
空を見上げると、絵の具で塗ったかのような、きれいな蒼だ。
風の冷たさが頬に心地よい、小春日和の休日。
小道を進むと、ほどなくして銀杏並木に出る。
目論んだ通り、銀杏並木は一番美しい季節を迎えていた。
目の前に広がるのは、碧空に目いっぱい枝を伸ばした、堂々たる銀杏たちの群れだ。どの木も、黄金色の見事な葉をふさふさと揺らしながら、並木道を眩しい黄金の道に変貌させていた。
足元を見れば、そこにも黄金色の落ち葉が絨毯のように敷き詰められ、色を添えていた。
冬の陽の光を浴びて黄金色に輝く銀杏並木と、その上に広がるどこまでも蒼い空を見上げながら、大好きな父のことを思った。
この並木道を、一歩一歩、リハビリのために必死の思いで歩いていた父。
「もうこれ以上歩けない」と言ってベンチに座ってしまった父。
人一倍我慢強い父の、その言葉は、父がどれほど辛かったかを物語っていた。それなのに「がんばって、もう少しだから」と、無理やり歩かせてしまった私・・・
あれから2度目の季節が巡ってきて、今は、この並木道を一人で歩いている。
降り注ぐ冬の陽は暖かく、楽しそうに行きかう人々の上に、惜しげもなくその光を注いでいる。
胸に残る痛みや哀しみを、優しい思い出に変えてくれる、時の流れのように・・・。
今日のティータイム用に、父の大好きだったモンブランを買って帰ろう。
日が高く昇り、ますます暖かさを増してきた青山の並木道で見上げた空に、笑顔の父が浮かんで見えた。