「 日本語の国に生まれて 」
波佐谷 圭代(横浜市)
私は外国語を習得するのはあまり得意ではない。中学の頃から習っている英語は未だにカタコト、意志を伝えることはかろうじてできるが、会話はできない。フランス語も学び始めてはや8年になる。1年間留学したおかげでこちらはそれなりに話せる。しかしまだ仕事で使えるほどのものではない。世界共通語である英語やフランス語ではなく、日本でしか話されることのない日本語なんていうマイナー言語を母国語に生まれ持ったことを何度悔やんだことか。日本の外で生活することを考えている私にとって、日本語はいらぬものなのだ。
しかし日本人に生まれたことを全く後悔しているわけではない。誇りに思うこともある。近頃、留学生のための日本語の授業を見学させてもらっている。毎回驚かされるのだが、留学生はいつも英語で会話しているのだ。英語を母国語としている人に至っては、授業中に質問や意見をする時も英語なのである。日本語を勉強しに日本に来ているのに。私がフランスに留学していた時はみんなフランス語で話していた。日本人同士では日本語だったが、一人でも違う国の人がいればフランス語になった。そこで英語で会話することは滅多になかった。
確かに外国人にとって日本語を習得するのは難しい。この国では“すべての人が話せる”英語の方が確実にコミュニケーションをとれることも、日本語が話せなくても生活できることも理解できる。英語を話せれば他の言語を新たに習得する必要はないのだ、特に英語を母国語に持つ人にとっては。それに対し日本人はすべてを学ばなければならない。「学ぶ」ことが当たり前なのだ。日本人は他の国でもそこに馴染もうと一生懸命努力する、言葉に限らず文化・習慣も必死に吸収しようとする。勤勉であるのは日本人のすばらしいところだ。これは辺境の国だからこそ持てた性格なのだろう。この「学ぶ姿勢」を生まれながら持っていることを私はうれしく思う。