第 3392 号2014.01.26
「 ナナ 」
葉山 優子(藤沢市)
初めて抱いた彼女は紙のように軽かった。
「一緒に施設にいた母犬は助けられなかったの せめてこの子だけでもと」ボランティアの人が言った。飼い主だった老婦人が病気になる前はとても大事にされていたのだろう、人間への警戒心はまるでなく常に人肌恋しい様子だった。家に連れてくる道のりの彼女は、びっくりするくらい急いで歩いた。栄養失調で地肌が透けて見えるほど薄くなってしまった白い毛を2月の冷たい風になびかせ小さな足をフル回転させていた。どうしてこんなに急ぐのかな・・・もしかしたら、この道を行けば生まれ育った家に帰れると思っているのかな。そう考えた途端鼻の奥がツンとしてこの子の一生を引き受けようと決めた。
短期間に環境の変化が続いたせいか、最初は落ち着きもなく、
お腹をこわしがちだったナナ。やがて、お気に入りのソファの上から丸い目をクリクリさせて家族を観察するのが大好きになった。毛もフサフサになり、かわいらしいテディベアカットもできるようになった。お留守番が苦手なのは、家族みんなで甘やかしているせいだろう。
今ナナは私の膝の上で小さな寝息をたてている。少し前からコーヒーが飲みたいのだがもうしばらくこのままでいよう。