第 3391 号2014.01.19
「 憧れ 」
松岡 人代(高知県高岡郡四万十町)
高校生の頃、欲しくてたまらなかったバイクとギター。
30年の月日が流れ
手元にある、当時の憧れの品。
「また出かけるの?」なんて家族に呆れられながらも
ようやく手に入れたバイクに乗る休日。
いつかは日本全国駆け巡りたいと夢を抱いて
風と、日差しを身体中に浴びる。
車に乗っている時には気付けない、空気の匂いと変化。
久しぶりに走った道は、随分舗装されていて
走りやすくなっているのに、どこか寂しさを感じた。
家に帰って酒を一杯。
部屋の片隅に置かれたギターを手に取った。
安物のギターで覚えた曲は
今も指が覚えている。
不意に思い出す、もうひとつの憧れ。
初恋の女性。
制服姿で、無邪気に笑う色あせない姿。
手に入れた憧れと
手に入らないままの、憧れ。
けれどたぶん、これを幸せとよぶのだろう。きっと。