第 3388 号2013.12.29
「 トランプ大会 」
M・A(ペンネーム)
炬燵を出す時期になると思い出す光景があります。
祖母と私たち三人姉弟で、トランプに興じた思い出です。
父も母も忙しく働いていましたから、あまり遊んでもらった記憶がありません。その分、祖母が相手をしてくれました。夏にはシャーベットを一緒に作り、冬にはトランプやカルタで遊びました。
あれはお正月のことでした。私たち姉弟だけでなく、同じ年頃の従妹たちもいましたから。
みんな小学生でしたので、難しいトランプはできません。ばば抜きやページワン、せいぜい神経衰弱くらい。
祖母もトランプを広げていたことがうれしかったのでしょう。子どもたちは興奮し、些細なことにも笑い声を上げました。たった53枚のカードで、大いに盛り上がりました。
祖母は駆け引きが下手で、いいカードが出るとにっこり笑い、よくないカードを引いてしまった時には眉根を寄せました。
子どもにすら手の内が目に見えるようで、わざと困らせるカードを回したものです。
そのために、祖母はしょっちゅう負けていました。
「うわあい、おばあちゃんが一等ビリだ」
小さい従妹を喜ばせていました。
子どもの相手は骨が折れるものです。お正月は来客が多く、朝から台所に立ちっぱなしだった祖母はどんなにか疲れていたことでしょう。
けれど、記憶の中の祖母はいつも笑っています。孫たちを眺めて、心から満足げに。
私が中学生のときに祖母は亡くなりました。何ひとつ孝行できないまま逝かせてしまったことを今でも後悔しています。
「トランプ楽しかったよ。ありがとう」
せめてその一言を伝えたかったです。