第 3384 号2013.12.01
「 夕焼け 」
渡会 雅(ペンネーム)
保育園から孫のミウがべそをかきながら、嫁に抱かれて帰って来た。
「何かあったのか?」と尋ねる私に嫁が明るい顔で笑った。
「友達ととっくみあいのけんかしたんです」
「ほー、派出にやったのか?」と、お転婆の孫のことだからさもありなんと納得する私に嫁はけんかの理由をこう説明した。
「お絵かきの時間に真っ赤なウサギを描いたんだって。それを友達にそんな色のウサギなんていないって笑われて、飛びかかっていったと先生が言ってました」
「ほー、真っ赤なウサギか」と、首を傾ける私に嫁の顔はなお明るくなる。
「なぜ、そんな色のウサギを描いたのか、ミウはキッと口を結んで、説明しなかったんだって。笑われたせいで、頭に血がのぼってそれどころじゃなかったのかもしれないけど、この子、そういうところがあるんですよ。思っていることをなかなか口に出せない。- 園を出てから、道々ミウに聞いてみて、何だかジーンときました。ミウ、夕焼けに染まったウサギを描いたんだって」
その話を聞いて、日頃他の子より言葉の発達が遅れているかもしれないと心配している嫁に、私はこう言った。
「ミウはいい子に育ってるじゃないか。何の心配もいらないよ」
その日以来、厳冬だというのに、夕焼けの空を仰ぐたび、その赤い光を温かく感じるようになった。