第 3378 号2013.10.20
「 祈り 」
杉本 綾(ペンネーム)
月の光が差し込む部屋で、一心に木を削る。小さな木片が形を成していく。
畑の草取りをしながら虫の知らせというのだろうか。ふと思いついてメールをしたのは朝露が落ちたころだった。
「元気ですか?」
返信は思いもよらないものだった。
「先週手術をしました、脊髄に腫瘍ができていました。悪性リンパ腫だそうです。」
淡々とした文が胸に刺さった。一か月前は他愛のない話をしていたのに。
ふいに、涙があふれてきて。大声で泣いた。誰にも聞こえない。見渡せないほどの広さの畑にいるのはキツネだけだから。
神様に恨み言を並べた。
不公平だ。と。こんないい人に。と。
「なんで。なんで」
誰よりも尊敬する上司だった。どんなに大変なことも自ら率先してやる人だった。
私が農業を志し、退職したいといったときに一番に背中を押してくれた。
「やりたいことをやりなさい。後は大丈夫。なんとかするから。」
思い出がぐるぐる頭の中を駆け巡る。その中にあるのはいつも笑顔だった。
彫刻刀を机におろした。
できたのは小さな小さなお地蔵様。布にくるんで箱に入れた。
今の私には何もできないけれど。
どうか。あなたの支えになってくれますように。と祈りを込めて。