「 サンキューハザード 」
藤 秀(ペンネーム)
車線合流に際して、進路を譲ってもらった車が感謝の意味を込めてハザードランプを点滅させる行為に対し、サンキューハザードという名称があるのを最近知った。日本だけの習慣ではないらしいが、少なくとも欧米で見かけたことはあまり無く、日本で行われる頻度の方が圧倒的に多い印象である。賛否両論あるが、いかにも礼儀を重んじる日本人に合っていて、僕は好きである。自分がしてもらうと、何となくほっこりする。逆に自分がした時、ふと優しい気持ちになれている自分がいる。
あくまでもハザードランプは緊急停車時に使うべきだという主張も当然多いようで、その意見も尤もである。特に高速で走行中には危険であろう。
ただ、低速走行時や渋滞時に譲ってもらったときくらいは、まあ、そう言わず、良いのではないかと思ってしまう。
元々は、プロのドライバー、特に長距離トラックドライバーの方々の間で行われていたということである。今でこそどこにいても携帯電話で簡単に会話が出来るが、以前は長距離ドライバーさんにとって長時間会話が出来ない事は、孤独感を深める原因にもなったであろう。その寂しさを少しでも解消するため、会社は違えど同業の仲間同士のお疲れ様の意味も込めて、コミュニケーションをとるために始まったと想像すると、何とも温かい話、と思ってしまう。
東日本大震災の日、都内の職場で大きな揺れを経験した。通常通勤時間は車で片道30分だが、その日は大渋滞で帰宅に4時間かかった。ラジオからは凄まじい津波の状況が流れてきていた。幹線道路へ合流する車はいつにも増して多く、歩いた方が速かったくらいだったが、一度たりとも怒りやイライラのクラクションを聞くことはなく、僕自身も焦ることなく、かつて無いほど穏やかなドライブであった。一つだけ、いつもの渋滞とは少し異なった光景が見られた。あちらこちらでサンキューハザードが点滅していた。