第 3359 号2013.06.09
「 雨が好き 」
工藤 尚子(藤沢市)
雨が好き…梅雨が好き…嫌われることの多いこの季節が大好きだというと、友だちからは、変わっているとよくいわれる。でも、若葉から夏の熟れた緑へ変化していくその一歩手前、緑の成熟期が私は一番好きだ。雨をいっぱいに吸った緑と紫陽花・菖蒲は、灰色の梅雨空がよく似合う。
昔、家の庭で紫陽花の葉についたかたつむりやあおがえるを、傘をさしながら眺めていた自分を思い出す。
昔といえば、幼い頃(まだ家に電話もなかった頃)雨が降ると、母と姉の三人で、父の帰るだろう時間に傘をもってバス停まで迎えに行った。七時過ぎだろうか、もうまっくらになっていた。どのくらいの時間待っていたのか忘れたが、子どもの感覚ではずいぶん長かった気がする。バス停の電灯の下、遠くからみえるバスのあかりに、今度は乗っているかなあとドキドキして待っていたことを思い出す。運よく待っている間に帰ってくれば、うれしいようなでも少し気恥ずかしいような気持ちで手をつないで帰った。また運悪く遅くて待ちきれないような時は、三人でトボトボと、眠くなりかけた私を母がおぶってくれたこともあった。その父も昨年の冬に亡くなり、暗いバス停で待つ心細さと、父がバスから降りてきた時のうれしさが心に残る。雨は、思い出もよみがえらせてくれる。
それと、もう一つ忘れてはならない梅雨時の私の好きな花は、どくだみ。あのきりっとした青みをおびた白い花をみると、なぜか哀しいような、それでいてしたたかな強さを感じる。でも、またみんなにいわれそう、変わっている…と。