第 3347 号2013.03.17
「 ハートの石を誰かに 」
たびうっど(ペンネーム)
岩山を散歩中にハート型に近い小石を見かけることは特に珍しいことではないかもしれないが、その小石を拾い、赤の他人を喜ばせようと思って持ち歩く人は、それほどいないように思う。
今春、アメリカ合衆国のセドナを旅行中、初老のアメリカ人男性に出会った。
セドナはアメリカ合衆国の先住民であるネイティブ・アメリカンの聖地であり、赤い大地が広がる雄大な場所だ。そのセドナの聖なる赤い岩山で、私はその初老の男性と初めて言葉を交わした。
それは「ハロー」という簡単な挨拶で、ハイキング中のすれ違い時だった。
すると男性は「ハッピーをあなたに」と言いながら、小さな赤茶色のハート型の小石を私の手に握らせてくれた。少しごつごつとして薄っぺらの、掌にすっぽりとおさまる大きさ。そのハートはちょっぴりいびつであり、それがなんだかくすぐったいような気持ちにさせてくれる。
私は心温まる思いでハートの小石とともにハイキングを続けた。その後の足取りは明らかに軽くなった。
翌朝、また別の場所をハイキング中、偶然にも再度、その男性に出会うことができた。
私が「また会えましたね。すごく偶然ですね!」と興奮気味に話しかけると、
彼は「偶然なんかではないよ。ハートの石に導かれて、また会うことができたのさ」とウィンクしながら粋な一言。
彼は、その日もまた誰かに少しハッピーな気持ちになってもらいたくて、ハート型の小石を持ち歩いている。今日かれから出会う誰かに小石をあげるつもりだという。これが彼流のリタイアメント・ライフ。
リタイア後の人生。自分次第で日々を楽しく彩ることができるのだということを、彼は私に気付かせてくれた。