第 3343 号2013.02.17
「 男気 」
篠宮 晴子(東久留米市)
所変われば走る速さ変わる。
青森の小学校では、運動会の走る種目は全てビリだったのに、高松に転校したらなんとリレーの選手。当時私は6年生。 この時私の身体能力が、急にニョキニョキと伸びた訳ではもちろんない。
余りの違いに、そして予期せぬ出来事に、ただ驚くばかりだった。
ここで少し断わっておかなければならない。青森ではビリ、と書いたが、実は私はそれを全く苦にしていなかった。全くもって気にならなかった。生来順位というものに関心を持てない質らしい。幼稚園の徒競走でもやはりビリ。でも見に来ていた家族に、走りながらニッコリ笑って手を振るあり様。将来大物になる器、と変な関心をされた経歴の持ち主なのだ。
そんな私が、生まれて初めて、あろうことかリレーの選手になっちゃった。
それも、よりによってアンカー。
人生で一番必死に走ったレースだったかも知れない。でも、負けた。
悔しくて…申し訳なくて…。
これは応えた。
周りの人が腫れ物にさわる様に、私を遠巻きにしている気がした。裸足で孤独だった。
校庭の脇に掘っ立て小屋の様な駄菓子屋があった。その壁に寄りかかって座っていた少し年上の、ちょっと不良っぽい男の子。
会ったことも口をきいたこともない。
「よく頑張ったな」
春の陽ざしのような笑顔で、少しはにかみながら、でもしっかり伝わる低く柔らかい声で、私の目を見ながらたった一言、そう言ったのだ。
嬉しすぎて胸がつぶれそうだった。でも一言も応えられないまま、ただ通り過ぎた。
「男気」
何ということもない時にふっと、その人を、その場面を、必ずこの言葉と共に思い出す。