第 3342 号2013.02.10
「 ヒイラギ 」
児玉 和子(中野区)
加賀の千代女は、師から与えられた俳句の題『ほととぎす』の句作に苦しんでいるうちに、夜があけた。それをそのまま『ほととぎす、ほととぎすとて明けにけり』を詠んで師を感嘆させたそうである。
私はエッセイの題『冬の花』を抱えて、十日も経っているのに、その書き出しさえ思い浮かばない。冬の花といえるものがあまりに少ない。
水仙、びわの花、茶の花、山茶花、八つ手、石蕗、寒牡丹など、思いつくのはこのあたり。寒牡丹は厳密にいえば、二季咲きの牡丹の花芽を摘み捨てて、人工的に冬に咲かせるのだから、私としては冬の花の仲間にいれたくない。
花屋に並ぶポインセチア、シクラメン、デンドロリュウム、胡蝶蘭などの洋種も仲間にいれたくない。クリスマスも、正月もすぎたこの時期、花屋の店先を飾るのは、温室ものが店頭を占め、奥には苔梅や、五葉の松などが置かれ、南天や千両の赤い実が彩りを添えている。
私は日本在来の冬の花を書きたかったのに…。
こんな事情で仕方なく、いただいた水仙の花にまつわることを書いてお茶を濁した。
昨日バス停でバスを待っていると、少し先の家の軒下に置かれた鉢植えの木が、うっすらと雪化粧でもしたかのように見えた。不思議に思って近寄ってみると、一メートルばかりのヒイラギが花をつけていた。
初めて見るヒイラギの花。私は感動してバスを一台やり過ごして眺めた。
米粒ほどの四弁の花びらの奥から、長いしべを出し、数個が群れて、その群れが木全体を覆っていた。今は廃れたが、昔は立春の翌日、ヒイラギは小枝を折られ、イワシの頭を刺され、玄関の脇などで厄除けをした。
誰に見せようでもなく、寒中にひっそりと咲くヒイラギ。もうすぐ立春がくる。
ヒイラギは『柊』と書く。私の望んだ文字通りの冬の花であった。