第 3336 号2013.01.01
「 孫との約束 」
川上 貢弘(世田谷区)
関西にいる孫たちは会うたびに大きくなる。小学生になった孫はパパから本物のグローブを買ってもらったのが自慢。家の中でもグローブをはめて得意げにポーズをとる。
「お正月に東京へ来るときはグローブを持っておいで。近くの広い公園でじーじとノックやキャッチボールをしよう!」
この言葉で孫の思いはすっかり東京のお正月に飛んだ。
新年を二日後に控えたお昼頃にこれまでより大きめ宅急便が届いた。娘家族が年末年始を東京の我が家で過ごすためのもの。今年は野球道具が入っているらしい。
私は孫との約束を果たすのに不安を残していた。一番近い公園は「キャッチボール禁止」の立札があったのだ。都心では公園以外にキャッチボールができる空地はない。他の公園事務所に問い合わせたがいずれもキャッチボール禁止なのである。子供たちが卒業した近くの小学校にも訊いてみたが、校庭は一般の人には開放していないという。思案の末、グローブを生産するスポーツ用品会社に問い合わせた。
〈ここなら良いアドバイスがあるかも〉
と思ったからだ。事情を知った担当者は、社内の関係者にも相談してくれたのだが、「都内の公園はどこもキャッチボールを禁じているようです。近くに河川敷がありませんか。そこなら大丈夫と思います」
と、申し訳なさそうに答えてくれた。
宅急便が届いた日の夕方、娘家族がやってきた。その夜、これまでのことを話した。
正月を迎えて、娘家族とバスと電車を乗り継いで心当たりの場所まで出掛けて、やっと孫との約束を果たした。
私たちの子供の頃、町のあちこちに原っぱがあった。学校から帰ると子供たちは陽が沈むまでここで遊んで野球もできた。 今、都会から原っぱが消え、公園ではキャッチボールができなくなった。