「 ソースかけますか 」
篠崎 美和子(府中市)
車に乗る時は、まだ夕焼け空であたりが赤かったが、家のそばまで来ると空はすっかり暗い。
近くのコンビニで、朝用の食パンと牛乳を買おう。
車から降りると、冷たい風が顔に当たる。急に心細い心持になるのは、暗くなったからか、仕事帰りですっかりくたびれているからか。
でも、今日はカレーが作ってあるから、サラダを作ればいいんだな、なんて気を取り直し店内を歩く。
いつもの食パンがないから、代わりにくるみパンとメロンパンと牛乳持ってレジにいく。
フライドチキンやポテトフライが入っている透明な棚からヒョイと顔を出したのは、見慣れない若い女の子だ。まつ毛が黒々した今風の化粧をしている。
今までちらと見るだけの棚が気になった。そして急に、「コロッケのせたらコロッケカレー」と思った。
学生時代に、学食でよく食べたな。
「コロッケ3つください。」
「はい、別の袋にしますね。」
紙袋、コンビニの袋と入れながら、女の子が顔を上げ黒まつ毛をパチパチさせて言った。
「ソースかけますか。」
「えっ、いりません。」
なんで?家にソースないように見えたのかな。
助手席に荷物を置いたら、コロッケ入りの袋が落ちそうになって手に取ると、熱いくらいのそれは、なんともいい匂いがした。
「あ、そうか。今、食べるためにソースかけますかって言ったんだ。」
独り言を言いながら、ひとつ取り出して食べてみる。あまりのおいしさに気絶しそうだ。
ふたくち、みくちと食べて、我に返ると何だか落ち着かない。しかし、車の横を通る人は誰も、オバサンがコロッケにかぶりついていることなど気に留めない。
そういえば「お行儀悪い」って、最近聞かないな。そうだよ、黒まつ毛にそう思われたんだもの。
昔は、部活帰りに駅前のお肉屋で買ったコロッケ食べながら、電車乗ったっけな。
しみじみしてたら、くたびれていた体と心がぼぐれていって、急に元気がわいてきた。