第 3325 号2012.10.14
「 私の青い空 」
佐藤 玲(ペンネーム)
地方で医院を営んでいた父は、83歳で一人暮らしだった。
往診の途中で食材を買い、診察の合間に食事の支度をした。
「大丈夫?」遠方から心配する私に
「楽しんでやってるからちっとも苦じゃない」と答え、
様子を見に帰ると、いつも楽しそうに暮らしていた。
そんな父の姿に安心し、私は自分の家族や人生に没頭し、時々父の事を忘れた。
癌が見つかり、私の家の近くに入院した父は、
既に介護を抱える私への負担ばかり気にしていたけれど、
ある晩、突然、ICUに運ばれた。
医療機器に囲まれて眠る父を見守りながら、
私の脳裏には、なぜか故郷の青い空ばかり浮かんだ。
その青い空の下を、トコトコと父の車が走って行く。
兄が乗り、弟も乗った古い車に往診鞄を乗せて、
窓からの風に目を細める父が見える。
父が亡くなってもう6年。
今だに父の写真は飾れないけれど、
真っ青な空が広がると、私の心の中にはどこまでもどこまでも、父の面影が広がるのだ。