「 お風呂 今昔 」
撫子(ペンネーム)
長年使ってきたお風呂が壊れたので、最近取り替えてみてびっくりした。
頼んでもいないのに大きな声で教えてくれる。「あと5分でお風呂が沸きまーす」「お風呂が沸きました!」じゃじゃーんと音楽まで入る。夫と二人で、オフロガワキマシタ!と口真似して大笑いになった。しかも、追い焚きや、温度調整、保温までやってくれる。時代も変わったなあと、しばし感慨にふける。
もう50年近くも前になるが、嫁いだ先がなんとびっくり、五右衛門風呂だった。石川五右衛門さんが釜茹でになったというアレだ。義父が生前好んでいたそうで、お湯のきめが細かくて、体が良く暖まるという。鉄で出来た風呂釜に水を張って、下から薪や石炭を焚いて沸かす。焚き口が外にあったので、雨の日雪の日など傘をさして大変だった。湯船は鉄なので、直ぐ熱くなる。底に板を敷いて、その上にしゃがむ。時々その板がはずれて浮かんでしまい、アチチということにもなった。夫たちは子供の頃、その状態を「浮いた浮いたー」といって楽しんだとのこと。燃料店が薪と石炭を配達してくれた。最初は、煙ばっかり出て、ちっとも火がつかず苦労した。慣れてきた頃、「そんなにガンガン焚いたら、釜のためによくない」と、姑に言われてしまった。紙屑や木の葉など、乾いたごみは何でも燃やせたので、今から思うと究極のエコといえる。ひょろひょろと二階の屋根までとどく煙突から煙を出すのは、向こう三軒両隣に気兼ねだったが、仕方がなかった。そのうち、燃料店も廃業になり、煙突掃除屋さんも姿と消した。金属ロープにブラシをつけた道具を、地方の雑貨屋さんでみつけ、自分で掃除もしてみた。煤で真っ黒な我姿を鏡の中で見て泣き笑いした。
普通のお風呂の家に引っ越したときは、心底嬉しかった。そして、いま、最新式のしゃべるお風呂に驚いているところである。