「 おしゃべりと秋空の向こうに 」
古所(ペンネーム)
関西へ引っ越してきて1週間。私は友人と大きなショッピングセンターで待ち合わせをした。指定された場所に着くとテーブルや椅子が幾つか置かれていた。
丁度手前の椅子が空いていたので腰掛けると、すぐ横の椅子に帽子をかぶった女性がさりげなく腰掛けた。お互いに目が合ったので軽く会釈をした。
友人を待っている間、左肩に右手をあてて揉んだ。「肩こってますの?」女性が語りかけた「そうなんですよ」「それはあかんね~私もひどい肩こりしてますけどね」「そうなんですか?」それからおしゃべりが始まった。私は引越しらくらく…にしたのに恐ろしい量の片付けですっかり疲労困ぱい中なのだと思わず告白した。
「そりゃ大変だわね~私は70になるけどね」「お若いですねぇ」「そんなことあらへん」「いえいえ」「あはは」彼女も50代の時に引越しをして、捨てられない家財道具や荷物があって大変だったと話した。「しつけが付いたままの着物も沢山あるんやけどまだよう捨てんのですわ」「もったいないですよね」「そうや」いつのまにか、まるで昔からの知り合いのように話が弾んだ。
「お待たせ!」友人の声で私達の会話が中断した。「あ!ごめんなさいね」彼女は申し訳なさそうにごめんごめんと片手を縦に振りながら早足に立ち去ろうとした。「いいえ!こちらこそつい…でも楽しかったです」私は笑顔で頭を下げた。彼女が再びこちらに戻ってきて言った「肩こり気をつけなさいや 無理して片付けせんようにね」お礼を言いながら胸がジーンと熱くなり涙が出そうになった。見知らぬ人が自分の体を気遣ってくれたその言葉のなんて温かいこと…母が生きていたらきっと同じ事を言っているだろう…
「知り合いなん?」「ううん」「え?!」友人は半ば呆れ顔で驚いた。
温かい応援の言葉を思いがけずプレゼントされたようで、この日ばかりは肩こりも疲労も真っ青な秋空の向こうに吹っ飛んでいったようだった。