「 予想外の朝 」
イチジク(ペンネーム)
一年にほんの数える程度、全く眠れない夜がある。
何かやらなくてはならないことがあって徹夜・・・ではなく、いつもの時間にベッドに入るのだが、眠れない。先日、そんな葛藤の夜がやってきた。羊を数えたり、敢えて難しい本を読んで頭を疲れさせようと努力するのだが、眠気はチクリとも姿を見せず。
ふと気がつくと、カーテンの隙間から薄青い空が見える。
時計を見ると、早朝5時半だった。体は相変わらずハツラツとしており、今からまた寝ようとしても、苦しいだけだ。
パチッと気持ちを切り替え、近所の公園へ軽いジョギングをしに行くことにした。
身軽な格好に着替え、外に出る。その瞬間、ここ最近感じたことのない、ピンと張った空気の瑞々しさを感じた。8月の、灼熱が重くのしかかった空気とは全く違う。9月に入った今、微妙に重なりあいながら少しずつ、でも確実に、夏から秋へと移り変わっていっているのだ。そう思うと嬉しくなり、公園へ向かう足取りも軽くなる。
公園には思った以上に多くの人が、活動していた。
犬の散歩をする人、ウォーキングをする人、ラジオ体操をする人、風景をキャンバスに描く人・・・みな、習慣化しているのだろう、黙々とこなし、顔見知りに合うと、ニコッと挨拶を交わしている。
私は、生まれたての爽やかな風を受けて走り出した。
木々の間からこぼれ落ちる、朝の光。
羽衣のような、うっすらと透き通った雲。
頬に当たる、温かくて柔らかな日差し。
目に映るもの、耳に届く音、肌で感じる自然の鼓動、その全てが胸の中で響きあい、私は何ともいえない心地よさに包まれた。朝は惜しみなく、潤った自然の表情を見せてくれるのだ。そんな素敵なこと、今まで知らなかった。
ゆっくりと時間を味わいながら走り、蝉の声が大きくなり始めたころ、家路についた。
まだ朝7時前。自然からたっぷりの幸せとエネルギーをもらった私の心は、始まったばかり今日一日に、大きな期待を膨らませている。